です。いらないものを抜いたり、いったいの調子を和《やわら》げたり、際《きわ》どい光線の作用を全景にあらわしたり、いろいろな事をやるんです。早いものでもう景色《けいしょく》専門家や人物専門家が出来てるんですからね」
「あなたは人物の専門家なの」
「僕? 僕は――そうさ、――あなただけの専門家になろうと思うのです」
「厭《いや》なかたね」
金剛石《ダイヤモンド》がきらりとひらめいて、薄紅《うすくれない》の袖《そで》のゆるる中から細い腕《かいな》が男の膝《ひざ》の方に落ちて来た。軽《かろ》くあたったのは指先ばかりである。
善人の会話は写真撮影に終る。
八
秋は次第に行く。虫の音《ね》はようやく細《ほそ》る。
筆硯《ひっけん》に命を籠《こ》むる道也《どうや》先生は、ただ人生の一大事《いちだいじ》因縁《いんねん》に着《ちゃく》して、他《た》を顧《かえり》みるの暇《いとま》なきが故《ゆえ》に、暮るる秋の寒きを知らず、虫の音の細るを知らず、世の人のわれにつれなきを知らず、爪の先に垢《あか》のたまるを知らず、蛸寺《たこでら》の柿の落ちた事は無論知らぬ。動くべき社会をわが力に
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