ちょ》した。云えば女の表情が崩《くず》れる。この、訝《いぶか》るがごとく、訴うるがごとく、深い眼のうちに我を頼るがごとき女の表情を一瞬たりとも、我から働きかけて打《う》ち壊《こわ》すのは、メロスのヴィーナスの腕《かいな》を折ると同じく大《おおい》なる罪科《ざいか》である。
「気高《けだか》過ぎて……」と男の我を援《たす》けぬをもどかしがって女は首を傾けながら、我からと顔の上なる姿を変えた。男はしまったと思う。
「そう、すこし堅過ぎます。愛と云う感じがあまり現われていない」
「何だか冷《つ》めたいような心持がしますわ」
「その通りだ。冷めたいと云うのが適評だ。何だか妙だと思っていたが、どうも、いい言葉が出て来なかったんです。冷めたい――冷めたい、と云うのが一番いい」
「なぜこんなに、拵《こし》らえたんでしょう」
「やっぱりフ※[#小書き片仮名ヒ、1−6−84]ジアス式だから厳格なんでしょう」
「あなたは、こう云うのが御好き」
 女は石像をさえ、自分と比較して愛人の心を窺《うかが》って見る。ヴィーナスを愛するものは、自分を愛してはくれまいと云う掛念《けねん》がある。女はヴィーナスの、神であ
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