この裸体像の上に落ちた。
「あの像は」と聞く。
「無論模造です。本物は巴理《パリ》のルーヴルにあるそうです。しかし模造でもみごとですね。腰から上の少し曲ったところと両足の方向とが非常に釣合がよく取れている。――これが全身完全だと非常なものですが、惜しい事に手が欠けてます」
「本物も欠けてるんですか」
「ええ、本物が欠けてるから模造もかけてるんです」
「何の像でしょう」
「ヴィーナス。愛の神です」と男はことさらに愛と云う字を強く云った。
「ヴィーナス!」
深い眼睫《まつげ》の奥から、ヴィーナスは溶《と》けるばかりに見詰められている。冷《ひや》やかなる石膏《せっこう》の暖まるほど、丸《まろ》き乳首《ちくび》の、呼吸につれて、かすかに動くかと疑《あや》しまるるほど、女は瞳《ひとみ》を凝《こ》らしている。女自身も艶《えん》なるヴィーナスである。
「そう」と女はやがて、かすかな声で云う。
「あんまり見ているとヴィーナスが動き出しますよ」
「これで愛の神でしょうか」と女はようやく頭《かしら》を回《めぐ》らした。
あなたの方が愛の神らしいと云おうとしたが、女と顔を見合した時、男は急に躊躇《ちゅう
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