それじゃ本式に」
「本式にゃなおできませんわ」
「それじゃ、つまりおやめと云う訳《わけ》ですか」
「だってたくさん人のいる前なんかで、――恥ずかしくって、声なんか出やしませんわ」
「その新体詩はいいでしょう」
「ええ、わたし大好き」
「あなたが、そうやって、唱ってるところを写真に一つ取りましょうか」
「写真に?」
「ええ、厭ですか」
「厭じゃないわ。だけれども、取って人に御見せなさるでしょう」
「見せてわるければ、わたし一人で見ています」
女は何《な》にも云わずに眼を横に向けた。こぼれ梅を一枚の半襟《はんえり》の表《おもて》に掃き集めた真中《まんなか》に、明星《みょうじょう》と見まがうほどの留針《とめばり》が的※[#「白+樂」、第3水準1−88−69]《てきれき》と耀《かがや》いて、男の眼を射る。
女の振り向いた方には三尺の台を二段に仕切って、下には長方形の交趾《こうち》の鉢《はち》に細き蘭《らん》が揺《ゆ》るがんとして、香《こう》の煙りのたなびくを待っている。上段にはメロスの愛神《ヴィーナス》の模像を、ほの暗き室《へや》の隅に夢かとばかり据《す》えてある。女の眼は端《はし》なくも
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