「金持ちです」
「うん立派な家《うち》にいますね。君はあの男と親密なのですか」
「ええ、もとはごく親密でした。しかしどうもいかんです。近頃は――何だか――未来の細君か何か出来たんで、あんまり交際してくれないのです」
「いいでしょう。交際しなくっても。損にもなりそうもない。ハハハハハ」
「何だかしかし、こう、一人坊《ひとりぼ》っちのような気がして淋しくっていけません」
「一人坊っちで、いいでさあ」と道也先生またいいでさあ[#「いいでさあ」に傍点]を担《かつ》ぎ出した。高柳君はもう「先生ならいいでしょう」と突き込む勇気が出なかった。
「昔から何かしようと思えば大概は一人坊っちになるものです。そんな一人の友達をたよりにするようじゃ何も出来ません。ことによると親類とも仲違《なかたがい》になる事が出来て来ます。妻《さい》にまで馬鹿にされる事があります。しまいに下女までからかいます」
「私はそんなになったら、不愉快で生きていられないだろうと思います」
「それじゃ、文学者にはなれないです」
高柳君はだまって下を向いた。
「わたしも、あなたぐらいの時には、ここまでとは考えていなかった。しかし世の中
前へ
次へ
全222ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング