うまうま、何を見なくってもうまうまだからつまりは何《なに》にもつけなくてもいいのだそうだが、そこが小供に取って一番大切なものは食物だから、とうとう食物の方で、うまうまを専有してしまったのだそうです。そこで大人《おとな》もその癖がのこって、美味なものをうまい[#「うまい」に傍点]と云うようになった。だから人生の煩悶《はんもん》は要するに元へ還《かえ》ってうまうま[#「うまうま」に傍点]の二字に帰着すると云うのです。何だか寄席《よせ》へでも行ったようじゃないですか」
「馬鹿にしていますね」
「ええ、大抵は馬鹿にされに行くんですよ」
「しかしそんなつまらない事を云うって失敬ですね」
「なに、失敬だっていいでさあ、どうせ、分らないんだから。そうかと思うとね。非常に真面目《まじめ》だけれどもなかなか突飛《とっぴ》なのがあってね。この間は猛烈な恋愛論を聞かされました。もっとも若い人ですがね」
「中野じゃありませんか」
「君、知ってますか。ありゃ熱心なものだった」
「私の同級生です」
「ああ、そうですか。中野春台とか云う人ですね。よっぽど暇があるんでしょう。あんな事を真面目に考えているくらいだから」
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