かりまくり上げた。
午過《ひるすぎ》に帰って来て見ると、御米は金盥《かなだらい》の中に雑巾《ぞうきん》を浸《つ》けて、六畳の鏡台の傍《そば》に置いていた。その上の所だけ天井《てんじょう》の色が変って、時々|雫《しずく》が落ちて来た。
「靴ばかりじゃない。家《うち》の中まで濡《ぬ》れるんだね」と云って宗助は苦笑した。御米はその晩夫のために置炬燵《おきごたつ》へ火を入れて、スコッチの靴下と縞羅紗《しまらしゃ》の洋袴《ズボン》を乾かした。
明《あく》る日もまた同じように雨が降った。夫婦もまた同じように同じ事を繰り返した。その明る日もまだ晴れなかった。三日目の朝になって、宗助は眉《まゆ》を縮めて舌打をした。
「いつまで降る気なんだ。靴がじめじめして我慢にも穿《は》けやしない」
「六畳だって困るわ、ああ漏《も》っちゃ」
夫婦は相談して、雨が晴れしだい、家根を繕《つくろ》って貰うように家主《やぬし》へ掛け合う事にした。けれども靴の方は何ともしようがなかった。宗助はきしんで這入《はい》らないのを無理に穿《は》いて出て行った。
幸《さいわい》にその日は十一時頃からからりと晴れて、垣に雀《すずめ
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