う見積っても両方寄せると、十円にはなる。十円と云う纏《まとま》った御金を、今のところ月々出すのは骨が折れるって云うのよ」
「それじゃことしの暮まで二十何円ずつか出してやるのも無理じゃないか」
「だから、無理をしても、もう一二カ月のところだけは間に合せるから、そのうちにどうかして下さいと、安さんがそう云うんだって」
「実際できないのかな」
「そりゃ私《わたし》には分らないわ。何しろ叔母さんが、そう云うのよ」
「鰹舟《かつおぶね》で儲《もう》けたら、そのくらい訳なさそうなもんじゃないか」
「本当ね」
御米は低い声で笑った。宗助もちょっと口の端《はた》を動かしたが、話はそれで途切《とぎ》れてしまった。しばらくしてから、
「何しろ小六は家《うち》へ来るときめるよりほかに道はあるまいよ。後《あと》はその上の事だ。今じゃ学校へは出ているんだね」と宗助が云った。
「そうでしょう」と御米が答えるのを聞き流して、彼は珍らしく書斎に這入《はい》った。一時間ほどして、御米がそっと襖《ふすま》を開《あ》けて覗《のぞ》いて見ると、机に向って、何か読んでいた。
「勉強? もう御休みなさらなくって」と誘われた時、
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