れでああおっしゃるのよ。なに兄さんだって、もう少し都合が好ければ、疾《と》うにもどうにかしたんですけれども、御存じの通りだから実際やむを得なかったんですわ。しかしこっちからこう云って行けば、叔母さんだって、安さんだって、それでも否《いや》だとは云われないわ。きっとできるから安心していらっしゃい。私《わたし》受合うわ」
 御米にこう受合って貰った小六は、また雨の音を頭の上に受けて本郷へ帰って行った。しかし中一日置いて、兄さんはまだ行かないんですかと聞きに来た。また三日ばかり過ぎてから、今度は叔母さんの所へ行って聞いたら、兄さんはまだ来ないそうだから、なるべく早く行くように勧《すす》めてくれと催促して行った。
 宗助が行く行くと云って、日を暮らしているうちに世の中はようやく秋になった。その朗らかな或日曜の午後に、宗助はあまり佐伯へ行くのが後《おく》れるので、この要件を手紙に認《したた》めて番町へ相談したのである。すると、叔母から安之助は神戸へ行って留守だと云う返事が来たのである。

        五

 佐伯《さえき》の叔母の尋ねて来たのは、土曜の午後の二時過であった。その日は例になく朝
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