て着物を脱《ぬ》ぎ更《か》えた。
「それよりか、あの六畳を空《あ》けて、あすこへ来ちゃいけなくって」と御米が云い出した。御米の考えでは、こうして自分の方で部屋と食物だけを分担して、あとのところを月々いくらか佐伯から助《すけ》て貰《もら》ったら、小六の望み通り大学卒業までやって行かれようと云うのである。
「着物は安さんの古いのや、あなたのを直して上げたら、どうかなるでしょう」と御米が云い添えた。実は宗助にもこんな考が、多少頭に浮かんでいた。ただ御米に遠慮がある上に、それほど気が進まなかったので、つい口へ出さなかったまでだから、細君からこう反対《あべこべ》に相談を掛けられて見ると、固《もと》よりそれを拒《こば》むだけの勇気はなかった。
小六にその通りを通知して、御前さえそれで差支《さしつかえ》なければ、おれがもう一遍佐伯へ行って掛合って見るがと、手紙で問い合せると、小六は郵便の着いた晩、すぐ雨の降る中を、傘《からかさ》に音を立ててやって来て、もう学資ができでもしたように嬉《うれ》しがった。
「何、叔母さんの方じゃ、こっちでいつまでもあなたの事を放り出したまんま、構わずにおくもんだから、そ
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