はい》れずじまいになるのはいかにも残念だから、借金でも何でもして、行けるところまで行きたいが、何か好い工夫はあるまいかと相談をかけるので、安之助はよく宗さんにも話して見ようと答えると、小六はたちまちそれを遮《さえ》ぎって、兄はとうてい相談になってくれる人じゃない。自分が大学を卒業しないから、他《ひと》も中途でやめるのは当然だぐらいに考えている。元来今度の事も元を糺《ただ》せば兄が責任者であるのに、あの通りいっこう平気なもので、他が何を云っても取り合ってくれない。だから、ただ頼りにするのは君だけだ。叔母さんに正式に断わられながら、また君に依頼するのはおかしいようだが、君の方が叔母さんより話が分るだろうと思って来たと云って、なかなか動きそうもなかったそうである。
 安之助は、そんな事はない、宗さんも君の事ではだいぶ心配して、近いうちまた家《うち》へ相談に来るはずになっているんだからと慰めて、小六を帰したんだと云う。帰るときに、小六は袂《たもと》から半紙を何枚も出して、欠席届が入用《にゅうよう》だからこれに判を押してくれと請求して、僕は退学か在学か片がつくまでは勉強ができないから、毎日学校へ
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