ったところで、一割か一割五分ぐらいなものでしょうし、また一つ間違えばまるで煙《けむ》にならないとも限らないんですから」と叔母がつけ加えた。
宗助は叔母の仕打に、これと云う目立った阿漕《あこぎ》なところも見えないので、心の中《うち》では少なからず困ったが、小六の将来について一口の掛合《かけあい》もせずに帰るのはいかにも馬鹿馬鹿しい気がした。そこで今までの問題はそこに据《す》えっきりにして置いて、自分が当時小六の学資として叔父に預けて行った千円の所置を聞き糺《ただ》して見ると、叔母は、
「宗さん、あれこそ本当に小六が使っちまったんですよ。小六が高等学校へ這入《はい》ってからでも、もうかれこれ七百円は掛かっているんですもの」と答えた。
宗助はついでだから、それと同時に、叔父に保管を頼んだ書画や骨董品《こっとうひん》の成行《なりゆき》を確かめて見た。すると、叔母は、
「ありあとんだ馬鹿な目に逢って」と云いかけたが、宗助の様子を見て、
「宗さん、何ですか、あの事はまだ御話をしなかったんでしたかね」と聞いた。宗助がいいえと答えると、
「おやおや、それじゃ叔父さんが忘れちまったんですよ」と云いな
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