がら、その顛末《てんまつ》を語って聞かした。
 宗助が広島へ帰ると間もなく、叔父はその売捌方《うりさばきかた》を真田《さなだ》とかいう懇意の男に依頼した。この男は書画骨董の道に明るいとかいうので、平生そんなものの売買の周旋をして諸方へ出入するそうであったが、すぐさま叔父の依頼を引き受けて、誰某《だれそれがし》が何を欲しいと云うから、ちょっと拝見とか、何々氏がこう云う物を希望だから、見せましょうとか号《ごう》して、品物を持って行ったぎり、返して来ない。催促すると、まだ先方から戻って参りませんからとか何とか言訳をするだけでかつて埒《らち》の明いた試《ためし》がなかったが、とうとう持ち切れなくなったと見えて、どこかへ姿を隠してしまった。
「でもね、まだ屏風《びょうぶ》が一つ残っていますよ。この間引越の時に、気がついて、こりゃ宗さんのだから、今度《こんだ》ついでがあったら届けて上げたらいいだろうって、安がそう云っていましたっけ」
 叔母は宗助の預けて行った品物にはまるで重きを置いていないような、ものの云い方をした。宗助も今日《きょう》まで放っておくくらいだから、あまりその方面には興味を有《も》
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