いう考になった。叔母の内幕話と云ったのはそこである。
「でね、少しあった株をみんなその方へ廻す事にしたもんだから、今じゃ本当に一文《いちもん》なし同然な仕儀《しぎ》でいるんですよ。それは世間から見ると、人数は少なし、家邸《いえやしき》は持っているし、楽に見えるのも無理のないところでしょうさ。この間も原の御母《おっか》さんが来て、まああなたほど気楽な方はない、いつ来て見ても万年青《おもと》の葉ばかり丹念に洗っているってね。真逆《まさか》そうでも無いんですけれども」と叔母が云った。
宗助が叔母の説明を聞いた時は、ぼんやりしてとかくの返事が容易に出なかった。心のなかで、これは神経衰弱の結果、昔のように機敏で明快な判断を、すぐ作り上げる頭が失《な》くなった証拠《しょうこ》だろうと自覚した。叔母は自分の云う通りが、宗助に本当と受けられないのを気にするように、安之助から持ち出した資本の高まで話した。それは五千円ほどであった。安之助は当分の間、わずかな月給と、この五千円に対する利益配当とで暮らさなければならないのだそうである。
「その配当だって、まだどうなるか分りゃしないんでさあね。旨《うま》く行
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