夫婦に紹介された。
「これがあの……」と叔母は逡巡《ためら》って宗助の方を見た。御米は何と挨拶《あいさつ》のしようもないので、無言のままただ頭を下げた。
小六も無論叔父夫婦と共に二人を迎いに来ていた。宗助は一眼その姿を見たとき、いつの間にか自分を凌《しの》ぐように大きくなった、弟の発育に驚ろかされた。小六はその時中学を出て、これから高等学校へ這入《はい》ろうという間際《まぎわ》であった。宗助を見て、「兄さん」とも「御帰りなさい」とも云わないで、ただ不器用に挨拶をした。
宗助と御米は一週ばかり宿屋|住居《ずまい》をして、それから今の所に引き移った。その時は叔父夫婦がいろいろ世話を焼いてくれた。細々《こまごま》しい台所道具のようなものは買うまでもあるまい、古いのでよければと云うので、小人数に必要なだけ一通り取り揃《そろ》えて送って来た。その上、
「御前も新世帯だから、さぞ物要《ものいり》が多かろう」と云って金を六十円くれた。
家《うち》を持ってかれこれ取り紛《まぎ》れているうちに、早《はや》半月|余《よ》も経ったが、地方にいる時分あんなに気にしていた家邸《いえやしき》の事は、ついまだ
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