ら、御米を見下して、
「まあ助かった」とむずかし気《げ》に云った。その嬉《うれ》しくも悲しくもない様子が、御米には天から落ちた滑稽《こっけい》に見えた。
また二三日して宗助の月給が五円昇った。
「原則通り二割五分増さないでも仕方があるまい。休《や》められた人も、元給のままでいる人もたくさんあるんだから」と云った宗助は、この五円に自己以上の価値をもたらし帰ったごとく満足の色を見せた。御米は無論の事心のうちに不足を訴えるべき余地を見出さなかった。
翌日《あくるひ》の晩宗助はわが膳《ぜん》の上に頭《かしら》つきの魚《うお》の、尾を皿の外に躍《おど》らす態《さま》を眺めた。小豆《あずき》の色に染まった飯の香《かおり》を嗅《か》いだ。御米はわざわざ清をやって、坂井の家に引き移った小六《ころく》を招いた。小六は、
「やあ御馳走《ごちそう》だなあ」と云って勝手から入って来た。
梅がちらほらと眼に入《い》るようになった。早いのはすでに色を失なって散りかけた。雨は煙るように降り始めた。それが霽《は》れて、日に蒸《む》されるとき、地面からも、屋根からも、春の記憶を新にすべき湿気がむらむらと立ち上《の
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