とした雨雲《あまぐも》は、辛《かろ》うじて、頭に触れずに過ぎたらしかった。けれども、これに似た不安はこれから先何度でも、いろいろな程度において、繰り返さなければすまないような虫の知らせがどこかにあった。それを繰り返させるのは天の事であった。それを逃げて回るのは宗助の事であった。
二十三
月が変ってから寒さがだいぶ緩《ゆる》んだ。官吏の増俸問題につれて必然起るべく、多数の噂《うわさ》に上った局員課員の淘汰《とうた》も、月末までにほぼ片づいた。その間ぽつりぽつりと首を斬《き》られる知人や未知人の名前を絶えず耳にした宗助《そうすけ》は、時々家へ帰って御米《およね》に、
「今度《こんだ》はおれの番かも知れない」と云う事があった。御米はそれを冗談《じょうだん》とも聞き、また本気とも聞いた。まれには隠れた未来を故意に呼び出す不吉な言葉とも解釈した。それを口にする宗助の胸の中にも、御米と同じような雲が去来した。
月が改って、役所の動揺もこれで一段落だと沙汰《さた》せられた時、宗助は生き残った自分の運命を顧《かえ》りみて、当然のようにも思った。また偶然のようにも思った。立ちなが
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