ぼ》った。背戸《せど》に干した雨傘《あまがさ》に、小犬がじゃれかかって、蛇《じゃ》の目の色がきらきらする所に陽炎《かげろう》が燃えるごとく長閑《のどか》に思われる日もあった。
「ようやく冬が過ぎたようね。あなた今度《こんだ》の土曜に佐伯《さえき》の叔母さんのところへ回って、小六さんの事をきめていらっしゃいよ。あんまりいつまでも放っておくと、また安《やす》さんが忘れてしまうから」と御米が催促した。宗助は、
「うん、思い切って行って来《き》よう」と答えた。小六は坂井の好意で、そこの書生に住み込んだ。その上に宗助と安之助が、不足のところを分担する事ができたらと小六に云って聞かしたのは、宗助自身であった。小六は兄の運動を待たずに、すぐ安之助に直談判《じきだんぱん》をした。そうして、形式的に宗助の方から依頼すればすぐ安之助が引き受けるまでに自分で埒《らち》を明けたのである。
 小康はかくして事を好まない夫婦の上に落ちた。ある日曜の午《ひる》宗助は久しぶりに、四日目の垢《あか》を流すため横町の洗場に行ったら、五十ばかりの頭を剃《そ》った男と、三十代の商人《あきんど》らしい男が、ようやく春らしくなっ
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