和しないから早く帰れったら、私《わたし》もそう思うって帰って行きました。どうしても、ありゃ万里の長城の向側《むこうがわ》にいるべき人物ですよ。そうしてゴビの沙漠《さばく》の中で金剛石《ダイヤモンド》でも捜していればいいんです」
「もう一人の御伴侶《おつれ》は」
「安井ですか、あれも無論いっしょです。ああなると落ちついちゃいられないと見えますね。何でも元は京都大学にいたこともあるんだとか云う話ですが。どうして、ああ変化したものですかね」
 宗助は腋《わき》の下から汗が出た。安井がどう変って、どう落ちつかないのか、全く聞く気にはならなかった。ただ自分が主人に安井と同じ大学にいた事を、まだ洩《も》らさなかったのを天祐《てんゆう》のようにありがたく思った。けれども主人はその弟と安井とを晩餐《ばんさん》に呼ぶとき、自分をこの二人に紹介しようと申し出た男である。辞退をしてその席へ顔を出す不面目だけはやっと免《まぬ》かれたようなものの、その晩主人が何かの機会《はずみ》につい自分の名を二人に洩《も》らさないとは限らなかった。宗助は後暗《うしろぐら》い人の、変名《へんみょう》を用いて世を渡る便利を切に感
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