剃《そ》る暇《いとま》を有《も》たなかった。三度とも宜道《ぎどう》の好意で白米の炊《かし》いだのを食べたには食べたが、副食物と云っては、菜の煮たのか、大根の煮たのぐらいなものであった。彼の顔は自《おのず》から蒼《あお》かった。出る前よりも多少|面窶《おもやつ》れていた。その上彼は一窓庵で考えつづけに考えた習慣がまだ全く抜け切らなかった。どこかに卵を抱《いだ》く牝鶏《めんどり》のような心持が残って、頭が平生の通り自由に働らかなかった。その癖《くせ》一方では坂井の事が気にかかった。坂井と云うよりも、坂井のいわゆる冒険者《アドヴェンチュアラー》として宗助の耳に響いたその弟《おとと》と、その弟の友達として彼の胸を騒がした安井の消息が気にかかった。けれども彼は自身に家主の宅へ出向いて、それを聞き糺《ただ》す勇気を有たなかった。間接にそれを御米《およね》に問うことはなおできなかった。彼は山にいる間さえ、御米がこの事件について何事も耳にしてくれなければいいがと気遣《きづか》わない日はなかったくらいである。宗助は年来住み慣れた家の座敷に坐って、
「汽車に乗ると短かい道中でも気のせいか疲れるね。留守中に
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