。前には堅固な扉がいつまでも展望を遮《さえ》ぎっていた。彼は門を通る人ではなかった。また門を通らないで済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ち竦《すく》んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった。
宗助は立つ前に、宜道と連れだって、老師の許《もと》へちょっと暇乞《いとまごい》に行った。老師は二人を蓮池《れんち》の上の、縁に勾欄《こうらん》の着いた座敷に通した。宜道は自《みずか》ら次の間に立って、茶を入れて出た。
「東京はまだ寒いでしょう」と老師が云った。「少しでも手がかりができてからだと、帰ったあとも楽だけれども。惜しい事で」
宗助は老師のこの挨拶《あいさつ》に対して、丁寧《ていねい》に礼を述べて、また十日前に潜《くぐ》った山門を出た。甍《いらか》を圧する杉の色が、冬を封じて黒く彼の後《うしろ》に聳《そび》えた。
二十二
家の敷居を跨《また》いだ宗助《そうすけ》は、己《おの》れにさえ憫然《びんぜん》な姿を描《えが》いた。彼は過去十日間毎朝頭を冷水《れいすい》で濡《ぬ》らしたなり、いまだかつて櫛《くし》の歯を通した事がなかった。髭《ひげ》は固《もと》より
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