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「敲いても駄目だ。独《ひと》りで開けて入れ」と云う声が聞えただけであった。彼はどうしたらこの門の閂《かんのき》を開ける事ができるかを考えた。そうしてその手段と方法を明らかに頭の中で拵《こしら》えた。けれどもそれを実地に開ける力は、少しも養成する事ができなかった。したがって自分の立っている場所は、この問題を考えない昔と毫《ごう》も異なるところがなかった。彼は依然として無能無力に鎖ざされた扉の前に取り残された。彼は平生自分の分別を便《たより》に生きて来た。その分別が今は彼に祟《たた》ったのを口惜《くちおし》く思った。そうして始から取捨も商量も容《い》れない愚なものの一徹一図を羨《うらや》んだ。もしくは信念に篤《あつ》い善男善女の、知慧も忘れ思議も浮ばぬ精進《しょうじん》の程度を崇高と仰いだ。彼自身は長く門外に佇立《たたず》むべき運命をもって生れて来たものらしかった。それは是非もなかった。けれども、どうせ通れない門なら、わざわざそこまで辿《たど》りつくのが矛盾であった。彼は後《うしろ》を顧《かえり》みた。そうしてとうていまた元の路へ引き返す勇気を有《も》たなかった。彼は前を眺《なが》めた
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