とに敬意を表していたのである。
「道は近きにあり、かえってこれを遠きに求むという言葉があるが実際です。つい鼻の先にあるのですけれども、どうしても気がつきません」と宜道はさも残念そうであった。宗助はまた自分の室《へや》に退《しりぞ》いて線香を立てた。
こう云う状態は、不幸にして宗助の山を去らなければならない日まで、目に立つほどの新生面を開く機会なく続いた。いよいよ出立の朝になって宗助は潔《いさぎ》よく未練を抛《な》げ棄《す》てた。
「永々御世話になりました。残念ですが、どうも仕方がありません。もう当分御眼にかかる折もございますまいから、随分|御機嫌《ごきげん》よう」と宜道に挨拶《あいさつ》をした。宜道は気の毒そうであった。
「御世話どころか、万事不行届でさぞ御窮屈でございましたろう。しかしこれほど御坐りになってもだいぶ違います。わざわざおいでになっただけの事は充分ございます」と云った。しかし宗助にはまるで時間を潰《つぶ》しに来たような自覚が明らかにあった。それをこう取り繕《つく》ろって云って貰《もら》うのも、自分の腑甲斐《ふがい》なさからであると、独《ひと》り恥じ入った。
「悟の遅速は
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