その折《おり》宜道から聞いた。
やがて提唱が始まった。宜道は懐《ふところ》から例の書物を出して、頁《ページ》を半《なか》ば擦《ず》らして宗助の前へ置いた。それは宗門無尽燈論《しゅうもんむじんとうろん》と云う書物であった。始めて聞きに出た時、宜道は、
「ありがたい結構な本です」と宗助に教えてくれた。白隠和尚《はくいんおしょう》の弟子の東嶺《とうれい》和尚とかいう人の編輯《へんしゅう》したもので、重に禅を修行するものが、浅い所から深い所へ進んで行く径路やら、それに伴なう心境の変化やらを秩序立てて書いたものらしかった。
中途から顔を出した宗助には、よくも解《げ》せなかったけれども、講者《こうじゃ》は能弁の方で、黙って聞いているうちに、大変面白いところがあった。その上参禅の士を鼓舞《こぶ》するためか、古来からこの道に苦しんだ人の閲歴譚《えつれきだん》などを取《と》り交《ま》ぜて、一段の精彩を着けるのが例であった。この日もその通りであったが、或所へ来ると、突然語調を改めて、
「この頃室中に来って、どうも妄想《もうぞう》が起っていけないなどと訴えるものがあるが」と急に入室者の不熱心を戒しめ出し
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