。宗助は無論手ぶらであった。提唱《ていしょう》と云うのが、学校でいう講義の意味である事さえ、ここへ来て始めて知った。
室《へや》は高い天井《てんじょう》に比例して広くかつ寒かった。色の変った畳の色が古い柱と映《て》り合って、昔を物語るように寂《さ》び果てていた。そこに坐っている人々も皆地味に見えた。席次不同に思い思いの座を占めてはいるが、高声《こうせい》に語るもの、笑うものは一人もなかった。僧は皆|紺麻《こんあさ》の法衣《ころも》を着て、正面の曲※[#「碌−石」、第3水準1−84−27]《きょくろく》の左右に列を作って向い合せに並んだ。その曲※[#「碌−石」、第3水準1−84−27]は朱で塗ってあった。
やがて老師が現われた。畳を見つめていた宗助には、彼がどこを通って、どこからここへ出たかさっぱり分らなかった。ただ彼の落ちつき払って曲※[#「碌−石」、第3水準1−84−27]に倚《よ》る重々しい姿を見た。一人の若い僧が立ちながら、紫《むらさき》の袱紗《ふくさ》を解いて、中から取り出した書物を、恭《うやうや》しく卓上に置くところを見た。またその礼拝《らいはい》して退《しり》ぞく態《さ
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