、それからが第一の矛盾であった。
「けっして損になる気遣《きづかい》はございません。十分《じっぷん》坐れば、十分の功があり、二十分坐れば二十分の徳があるのは無論です。その上最初を一つ奇麗《きれい》にぶち抜いておけば、あとはこう云う風に始終《しじゅう》ここにおいでにならないでも済みますから」
 宗助は義理にもまた自分の室《へや》へ帰って坐らなければならなかった。
 こんな時に宜道が来て、
「野中さん提唱《ていしょう》です」と誘ってくれると、宗助は心から嬉しい気がした。彼は禿頭《はげあたま》を捕《つら》まえるような手の着けどころのない難題に悩まされて、坐《い》ながらじっと煩悶《はんもん》するのを、いかにも切なく思った。どんなに精力を消耗《しょうこう》する仕事でもいいから、もう少し積極的に身体《からだ》を働らかしたく思った。
 提唱のある場所は、やはり一窓庵から一町も隔《へだた》っていた。蓮池《れんち》の前を通り越して、それを左へ曲らずに真直《まっすぐ》に突き当ると、屋根瓦《やねがわら》を厳《いか》めしく重ねた高い軒が、松の間に仰《あお》がれた。宜道は懐《ふところ》に黒い表紙の本を入れていた
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