た。風は朝から枝を吹かなかった。縁側《えんがわ》に出て、高い庇《ひさし》を仰ぐと、黒い瓦《かわら》の小口だけが揃《そろ》って、長く一列に見える外に、穏《おだや》かな空が、蒼《あお》い光をわが底の方に沈めつつ、自分と薄くなって行くところであった。

        十九

「危険《あぶの》うございます」と云って宜道《ぎどう》は一足先へ暗い石段を下りた。宗助《そうすけ》はあとから続いた。町と違って夜になると足元が悪いので、宜道は提灯《ちょうちん》を点《つ》けてわずか一丁ばかりの路《みち》を照らした。石段を下り切ると、大きな樹の枝が左右から二人の頭に蔽《お》い被《かぶ》さるように空を遮《さえぎ》った。闇《やみ》だけれども蒼い葉の色が二人の着物の織目に染み込むほどに宗助を寒がらせた。提灯の灯《ひ》にもその色が多少映る感じがあった。その提灯は一方に大きな樹の幹を想像するせいか、はなはだ小さく見えた。光の地面に届く尺数もわずかであった。照らされた部分は明るい灰色の断片となって暗い中にほっかり落ちた。そうして二人の影が動くに伴《つ》れて動いた。
 蓮池《れんち》を行き過ぎて、左へ上《のぼ》る所は、夜
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