つい遅くなりまして御気の毒です。すぐ御膳《ごぜん》に致しましょう。しかしこんな所だから上げるものがなくって困ります。その代り明日《あした》あたりは御馳走《ごちそう》に風呂《ふろ》でも立てましょう」と宜道が云ってくれた。宗助はありがたく囲炉裏《いろり》の向《むこう》に坐った。
 やがて食事を了《お》えて、わが室《へや》へ帰った宗助は、また父母未生《ふぼみしょう》以前《いぜん》と云う稀有《けう》な問題を眼の前に据《す》えて、じっと眺《なが》めた。けれども、もともと筋の立たない、したがって発展のしようのない問題だから、いくら考えてもどこからも手を出す事はできなかった。そうして、すぐ考えるのが厭《いや》になった。宗助はふと御米にここへ着いた消息を書かなければならない事に気がついた。彼は俗用の生じたのを喜こぶごとくに、すぐ鞄《かばん》の中から巻紙と封じ袋を取り出して、御米にやる手紙を書き始めた。まずここの閑静な事、海に近いせいか、東京よりはよほど暖かい事、空気の清朗な事、紹介された坊さんの親切な事、食事の不味《まず》い事、夜具蒲団《やぐふとん》の綺麗《きれい》に行かない事、などを書き連ねているう
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