能児であるかのごとき心持を起した。彼の慢心は京都以来すでに銷磨《しょうま》し尽していた。彼は平凡を分として、今日《こんにち》まで生きて来た。聞達《ぶんたつ》ほど彼の心に遠いものはなかった。彼はただありのままの彼として、宜道の前に立ったのである。しかも平生の自分より遥《はる》かに無力無能な赤子《あかご》であると、さらに自分を認めざるを得なくなった。彼に取っては新らしい発見であった。同時に自尊心を根絶するほどの発見であった。
宜道が竈《へっつい》の火を消して飯をむらしている間に、宗助は台所から下りて庭の井戸端《いどばた》へ出て顔を洗った。鼻の先にはすぐ雑木山《ぞうきやま》が見えた。その裾《すそ》の少し平《たいら》な所を拓《ひら》いて、菜園が拵《こしら》えてあった。宗助は濡《ぬ》れた頭を冷たい空気に曝《さら》して、わざと菜園まで下りて行った。そうして、そこに崖《がけ》を横に掘った大きな穴を見出した。宗助はしばらくその前に立って、暗い奥の方を眺《なが》めていた。やがて、茶の間へ帰ると、囲炉裏《いろり》には暖かい火が起って、鉄瓶《てつびん》に湯の沸《たぎ》る音が聞えた。
「手がないものだから、
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