い部屋に寝ていたのでないと意識するや否《いな》や、すぐ起き上がった。縁へ出ると、軒端《のきば》に高く大覇王樹《おおさぼてん》の影が眼に映った。宗助はまた本堂の仏壇の前を抜けて、囲炉裏《いろり》の切ってある昨日《きのう》の茶の間へ出た。そこには昨日の通り宜道の法衣《ころも》が折釘《おりくぎ》にかけてあった。そうして本人は勝手の竈《かまど》の前に蹲踞《うずく》まって、火を焚《た》いていた。宗助を見て、
「御早う」と慇懃《いんぎん》に礼をした。「先刻《さっき》御誘い申そうと思いましたが、よく御寝《おやすみ》のようでしたから、失礼して一人参りました」
 宗助はこの若い僧が、今朝夜明がたにすでに参禅を済まして、それから帰って来て、飯を炊《かし》いでいるのだという事を知った。
 見ると彼は左の手でしきりに薪《まき》を差し易《か》えながら、右の手に黒い表紙の本を持って、用の合間合間にそれを読んでいる様子であった。宗助は宜道に書物の名を尋ねた。それは碧巌集《へきがんしゅう》というむずかしい名前のものであった。宗助は腹の中で、昨夕《ゆうべ》のように当途《あてど》もない考《かんがえ》に耽《ふけ》って脳を疲
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