。あるものは混沌《こんとん》として雲のごとくに動いた。どこから来てどこへ行くとも分らなかった。ただ先のものが消える、すぐ後《あと》から次のものが現われた。そうして仕切りなしにそれからそれへと続いた。頭の往来を通るものは、無限で無数で無尽蔵で、けっして宗助の命令によって、留まる事も休む事もなかった。断ち切ろうと思えば思うほど、滾々《こんこん》として湧《わ》いて出た。
 宗助は怖《こわ》くなって、急に日常の我を呼び起して、室の中を眺《なが》めた。室は微《かす》かな灯《ひ》で薄暗く照らされていた。灰の中に立てた線香は、まだ半分ほどしか燃えていなかった。宗助は恐るべく時間の長いのに始めて気がついた。
 宗助はまた考え始めた。すると、すぐ色のあるもの、形のあるものが頭の中を通り出した。ぞろぞろと群がる蟻《あり》のごとくに動いて行く、あとからまたぞろぞろと群がる蟻のごとくに現われた。じっとしているのはただ宗助の身体《からだ》だけであった。心は切ないほど、苦しいほど、堪えがたいほど動いた。
 そのうちじっとしている身体も、膝頭《ひざがしら》から痛み始めた。真直に延ばしていた脊髄がしだいしだいに前の方
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