た》すかは、彼自身といえども全く知らなかった。彼は悟《さとり》という美名に欺《あざむ》かれて、彼の平生に似合わぬ冒険を試みようと企てたのである。そうして、もしこの冒険に成功すれば、今の不安な不定な弱々しい自分を救う事ができはしまいかと、はかない望を抱いたのである。
彼は冷たい火鉢《ひばち》の灰の中に細い線香を燻《くゆ》らして、教えられた通り座蒲団《ざぶとん》の上に半跏《はんか》を組んだ。昼のうちはさまでとは思わなかった室《へや》が、日が落ちてから急に寒くなった。彼は坐りながら、背中のぞくぞくするほど温度の低い空気に堪《た》えなかった。
彼は考えた。けれども考える方向も、考える問題の実質も、ほとんど捕《つら》まえようのない空漠《くうばく》なものであった。彼は考えながら、自分は非常に迂濶《うかつ》な真似《まね》をしているのではなかろうかと疑《うたが》った。火事見舞に行く間際《まぎわ》に、細かい地図を出して、仔細《しさい》に町名や番地を調べているよりも、ずっと飛び離れた見当違の所作《しょさ》を演じているごとく感じた。
彼の頭の中をいろいろなものが流れた。そのあるものは明らかに眼に見えた
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