親切に云ってくれた。それから最初のうちは、つめて坐《す》わるのは難儀だから線香を立てて、それで時間を計って、少しずつ休んだら好かろうと云うような注意もしてくれた。
宗助は線香を持って、本堂の前を通って自分の室《へや》ときまった六畳に這入《はい》って、ぼんやりして坐った。彼から云うといわゆる公案《こうあん》なるものの性質が、いかにも自分の現在と縁の遠いような気がしてならなかった。自分は今腹痛で悩んでいる。その腹痛と言う訴《うったえ》を抱《いだ》いて来て見ると、あにはからんや、その対症療法として、むずかしい数学の問題を出して、まあこれでも考えたらよかろうと云われたと一般であった。考えろと云われれば、考えないでもないが、それは一応腹痛が治まってからの事でなくては無理であった。
同時に彼は勤《つとめ》を休んで、わざわざここまで来た男であった。紹介状を書いてくれた人、万事に気をつけてくれる宜道に対しても、あまりに軽卒な振舞《ふるまい》はできなかった。彼はまず現在の自分が許す限りの勇気を提《ひっ》さげて、公案に向おうと決心した。それがいずれのところに彼を導びいて、どんな結果を彼の心に持ち来《き
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