、宗助の胸に彫りつけた。ただ唇《くちびる》があまり厚過ぎるので、そこに幾分の弛《ゆる》みが見えた。その代り彼の眼には、普通の人間にとうてい見るべからざる一種の精彩《せいさい》が閃《ひら》めいた。宗助が始めてその視線に接した時は、暗中に卒然として白刃を見る思があった。
「まあ何から入っても同じであるが」と老師は宗助に向って云った。「父母未生《ふぼみしょう》以前《いぜん》本来《ほんらい》の面目《めんもく》は何《なん》だか、それを一つ考えて見たら善《よ》かろう」
宗助には父母未生以前という意味がよく分らなかったが、何しろ自分と云うものは必竟《ひっきょう》何物だか、その本体を捕《つら》まえて見ろと云う意味だろうと判断した。それより以上口を利《き》くには、余り禅というものの知識に乏しかったので、黙ってまた宜道に伴れられて一窓庵へ帰って来た。
晩食《ばんめし》の時宜道は宗助に、入室《にゅうしつ》の時間の朝夕《ちょうせき》二回あることと、提唱《ていしょう》の時間が午前である事などを話した上、
「今夜はまだ見解《けんげ》もできないかも知れませんから、明朝《みょうちょう》か明晩御誘い申しましょう」と
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