《ひらち》に垣を繞《めぐ》らして、点在しているのは、幾多《いくら》もあった。近寄って見ると、いずれも門瓦《もんがわら》の下に、院号やら庵号やらが額にしてかけてあった。
 宗助は箔《はく》の剥《は》げた古い額を一二枚読んで歩いたが、ふと一窓庵から先へ探《さが》し出して、もしそこに手紙の名宛《なあて》の坊さんがいなかったら、もっと奥へ行って尋ねる方が便利だろうと思いついた。それから逆戻りをして塔頭を一々調べにかかると、一窓庵は山門を這入《はい》るや否やすぐ右手の方の高い石段の上にあった。丘外《おかはず》れなので、日当《ひあたり》の好い、からりとした玄関先を控えて、後《うしろ》の山の懐《ふところ》に暖まっているような位置に冬を凌《しの》ぐ気色《けしき》に見えた。宗助は玄関を通り越して庫裡《くり》の方から土間に足を入れた。上り口の障子《しょうじ》の立ててある所まで来て、たのむたのむと二三度呼んで見た。しかし誰も出て来てくれるものはなかった。宗助はしばらくそこに立ったまま、中の様子を窺《うかが》っていた。いつまで立っていても音沙汰《おとさた》がないので、宗助は不思議な思いをして、また庫裡を出て門
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