知り合によく鎌倉へ行く男があるから紹介してやろうと云った。宗助は車の中でその人の名前と番地を手帳に書き留めた。そうして次の日同僚の手紙を持ってわざわざ回り道をして訪問に出かけた。宗助の懐《ふところ》にした書状はその折席上で認《したた》めて貰ったものであった。
役所は病気になって十日ばかり休む事にした。御米《およね》の手前もやはり病気だと取り繕《つくろ》った。
「少し脳が悪いから、一週間ほど役所を休んで遊《あす》んで来るよ」と云った。御米はこの頃の夫の様子のどこかに異状があるらしく思われるので、内心では始終《しじゅう》心配していた矢先だから、平生煮え切らない宗助の果断を喜んだ。けれどもその突然なのにも全く驚ろいた。
「遊びに行くって、どこへいらっしゃるの」と眼を丸くしないばかりに聞いた。
「やっぱり鎌倉辺が好かろうと思っている」と宗助は落ちついて答えた。地味な宗助とハイカラな鎌倉とはほとんど縁の遠いものであった。突然二つのものを結びつけるのは滑稽《こっけい》であった。御米も微笑を禁じ得なかった。
「まあ御金持ね。私《わたし》もいっしょに連れてってちょうだい」と云った。宗助は愛すべき細君
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