いた。「今の世に……」と思っていた。その級友の動作が別に自分と違ったところもないようなのを見て、彼はますます馬鹿馬鹿しい気を起した。
 彼は今更ながら彼の級友が、彼の侮蔑《ぶべつ》に値《あたい》する以上のある動機から、貴重な時間を惜しまずに、相国寺へ行ったのではなかろうかと考え出して、自分の軽薄を深く恥じた。もし昔から世俗で云う通り安心《あんじん》とか立命《りつめい》とかいう境地に、坐禅の力で達する事ができるならば、十日《とおか》や二十日《はつか》役所を休んでも構わないからやって見たいと思った。けれども彼はこの道にかけては全くの門外漢であった。したがって、これより以上|明瞭《めいりょう》な考《かんがえ》も浮ばなかった。
 ようやく家《うち》へ辿《たど》り着いた時、彼は例のような御米と、例のような小六と、それから例のような茶の間と座敷と洋灯《ランプ》と箪笥《たんす》を見て、自分だけが例にない状態の下《もと》に、この四五時間を暮していたのだという自覚を深くした。火鉢《ひばち》には小さな鍋《なべ》が掛けてあって、その葢《ふた》の隙間《すきま》から湯気が立っていた。火鉢の傍《わき》には彼の常に
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