れ出たいと思った。その心はいかにも弱くて落ちつかなくって、不安で不定で、度胸がなさ過ぎて希知《けち》に見えた。彼は胸を抑《おさ》えつける一種の圧迫の下《もと》に、いかにせば、今の自分を救う事ができるかという実際の方法のみを考えて、その圧迫の原因になった自分の罪や過失は全くこの結果から切り放してしまった。その時の彼は他《ひと》の事を考える余裕《よゆう》を失って、ことごとく自己本位になっていた。今までは忍耐で世を渡って来た。これからは積極的に人世観を作り易《か》えなければならなかった。そうしてその人世観は口で述べるもの、頭で聞くものでは駄目であった。心の実質が太くなるものでなくては駄目であった。
彼は行く行く口の中で何遍も宗教の二字を繰り返した。けれどもその響は繰り返す後《あと》からすぐ消えて行った。攫《つか》んだと思う煙が、手を開けるといつの間にか無くなっているように、宗教とははかない文字であった。
宗教と関聯《かんれん》して宗助は坐禅《ざぜん》という記憶を呼び起した。昔し京都にいた時分彼の級友に相国寺《しょうこくじ》へ行って坐禅をするものがあった。当時彼はその迂濶《うかつ》を笑って
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