できた。けれども広い寒さを照らすには余りに弱過ぎた。夜は戸《と》ごとの瓦斯《ガス》と電灯を閑却《かんきゃく》して、依然として暗く大きく見えた。宗助はこの世界と調和するほどな黒味の勝った外套《マント》に包まれて歩いた。その時彼は自分の呼吸する空気さえ灰色になって、肺の中の血管に触れるような気がした。
彼はこの晩に限って、ベルを鳴らして忙がしそうに眼の前を往ったり来たりする電車を利用する考《かんがえ》が起らなかった。目的を有《も》って途《みち》を行く人と共に、抜目なく足を運ばす事を忘れた。しかも彼は根の締《しま》らない人間として、かく漂浪《ひょうろう》の雛形《ひながた》を演じつつある自分の心を省《かえり》みて、もしこの状態が長く続いたらどうしたらよかろうと、ひそかに自分の未来を案じ煩《わずら》った。今日《こんにち》までの経過から推《お》して、すべての創口《きずぐち》を癒合《ゆごう》するものは時日であるという格言を、彼は自家の経験から割り出して、深く胸に刻みつけていた。それが一昨日《おととい》の晩にすっかり崩《くず》れたのである。
彼は黒い夜の中を歩るきながら、ただどうかしてこの心から逃
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