っしょに出て来た安井が、いかなる程度の人物になったかを、頭の中で描《えが》いて見た。描かれた画《え》は無論|冒険者《アドヴェンチュアラー》の字面《じづら》の許す範囲内で、もっとも強い色彩を帯びたものであった。
かように、堕落の方面をとくに誇張した冒険者《アドヴェンチュアラー》を頭の中で拵《こしら》え上げた宗助は、その責任を自身一人で全く負わなければならないような気がした。彼はただ坂井へ客に来る安井の姿を一目見て、その姿から、安井の今日《こんにち》の人格を髣髴《ほうふつ》したかった。そうして、自分の想像ほど彼は堕落していないという慰藉《いしゃ》を得たかった。
彼は坂井の家《いえ》の傍《そば》に立って、向《むこう》に知れずに、他《ひと》を窺《うかが》うような便利な場所はあるまいかと考えた。不幸にして、身を隠すべきところを思いつき得なかった。もし日が落ちてから来るとすれば、こちらが認められない便宜《べんぎ》があると同時に、暗い中を通る人の顔の分らない不都合があった。
そのうち電車が神田へ来た。宗助はいつもの通りそこで乗り換えて家《うち》の方へ向いて行くのが苦痛になった。彼の神経は一歩で
前へ
次へ
全332ページ中269ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング