を正視して、熱心に浄瑠璃《じょうるり》を聞こうと力《つと》めた。けれどもいくら力めても面白くならなかった。時々眼を外《そ》らして、御米の顔を偸《ぬす》み見た。見るたびに御米の視線は正しい所を向いていた。傍《そば》に夫のいる事はほとんど忘れて、真面目《まじめ》に聴いているらしかった。宗助は羨《うら》やましい人のうちに、御米まで勘定《かんじょう》しなければならなかった。
中入の時、宗助は御米に、
「どうだ、もう帰ろうか」と云い掛けた。御米はその唐突《とうとつ》なのに驚ろかされた。
「厭なの」と聞いた。宗助は何とも答えなかった。御米は、
「どうでもいいわ」と半分夫の意に忤《さか》らわないような挨拶《あいさつ》をした。宗助はせっかく連れて来た御米に対して、かえって気の毒な心が起った。とうとうしまいまで辛抱《しんぼう》して坐っていた。
家《うち》へ帰ると、小六は火鉢《ひばち》の前に胡坐《あぐら》を掻《か》いて、背表紙《せびょうし》の反《そ》り返るのも構わずに、手に持った本を上から翳《かざ》して読んでいた。鉄瓶《てつびん》は傍《わき》へ卸《おろ》したなり、湯は生温《なまぬ》るく冷《さ》めてしま
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