風を恐れる調子があった。宗助は落ちついて、
「今夜は少し暖《あっ》たかいようだね。穏《おだ》やかで好い御正月だ」と云った。飯を済まして煙草《たばこ》を一本吸う段になって、突然、
「御米、寄席《よせ》へでも行って見ようか」と珍らしく細君を誘った。御米は無論|否《いな》む理由を有《も》たなかった。小六は義太夫などを聞くより、宅《うち》にいて餅《もち》でも焼いて食った方が勝手だというので、留守を頼んで二人出た。
少し時間が遅れたので、寄席はいっぱいであった。二人は座蒲団《ざぶとん》を敷く余地もない一番|後《うしろ》の方に、立膝《たてひざ》をするように割り込まして貰った。
「大変な人ね」
「やっぱり春だから入るんだろう」
二人は小声で話しながら、大きな部屋にぎっしり詰まった人の頭を見回《みまわ》した。その頭のうちで、高座《こうざ》に近い前の方は、煙草の煙で霞《かす》んでいるようにぼんやり見えた。宗助にはこの累々《るいるい》たる黒いものが、ことごとくこう云う娯楽の席へ来て、面白く半夜を潰《つぶ》す事のできる余裕のある人らしく思われた。彼はどの顔を見ても羨《うらや》ましかった。
彼は高座の方
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