猛烈な自然の力の狂う間に、いつもより明らかな日がのそりと出ていた。風は洋袴《ズボン》の股《また》を冷たくして過ぎた。宗助にはその砂を捲《ま》いて向うの堀の方へ進んで行く影が、斜めに吹かれる雨の脚《あし》のように判然《はっきり》見えた。
 役所では用が手に着かなかった。筆を持って頬杖《ほおづえ》を突いたまま何か考えた。時々は不必要な墨を妄《みだ》りに磨《す》りおろした。煙草《たばこ》はむやみに呑んだ。そうしては、思い出したように窓硝子《まどガラス》を通して外を眺めた。外は見るたびに風の世界であった。宗助はただ早く帰りたかった。
 ようやく時間が来て家《うち》へ帰ったとき、御米は不安らしく宗助の顔を見て、
「どうもなくって」と聞いた。宗助はやむを得ず、どうもないが、ただ疲れたと答えて、すぐ炬燵《こたつ》の中へ入ったなり、晩食《ばんめし》まで動かなかった。そのうち風は日と共に落ちた。昼の反動で四隣《あたり》は急にひっそり静まった。
「好い案排《あんばい》ね、風が無くなって。昼間のように吹かれると、家に坐っていても何だか気味が悪くってしようがないわ」
 御米の言葉には、魔物でもあるかのように、
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