ぐ枕元へ来て、上から覗《のぞ》き込むように宗助を見た。宗助は夜具の襟《えり》から顔を全く出した。次の間の灯《ひ》が御米の頬を半分照らしていた。
「熱い湯を一杯貰おう」
宗助はとうとう言おうとした事を言い切る勇気を失って、嘘《うそ》を吐《つ》いてごまかした。
翌日宗助は例のごとく起きて、平日と変る事なく食事を済ました。そうして給仕をしてくれる御米の顔に、多少安心の色が見えたのを、嬉《うれ》しいような憐《あわ》れなような一種の情緒《じょうしょ》をもって眺《なが》めた。
「昨夕《ゆうべ》は驚ろいたわ。どうなすったのかと思って」
宗助は下を向いて茶碗に注《つ》いだ茶を呑《の》んだだけであった。何と答えていいか、適当な言葉を見出さなかったからである。
その日は朝からから風が吹き荒《すさ》んで、折々|埃《ほこり》と共に行く人の帽を奪った。熱があると悪いから、一日休んだらと云う御米の心配を聞き捨てにして、例の通り電車へ乗った宗助は、風の音と車の音の中に首を縮《ちぢ》めて、ただ一つ所を見つめていた。降りる時、ひゅうという音がして、頭の上の針線《はりがね》が鳴ったのに気がついて、空を見たら、この
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