た。彼はこれほど偶然な出来事を借りて、後《うしろ》から断りなしに足絡《あしがら》をかけなければ、倒す事のできないほど強いものとは、自分ながら任じていなかったのである。自分のような弱い男を放り出すには、もっと穏当《おんとう》な手段でたくさんでありそうなものだと信じていたのである。
 小六《ころく》から坂井の弟、それから満洲、蒙古《もうこ》、出京、安井、――こう談話の迹《あと》を辿《たど》れば辿るほど、偶然の度はあまりにはなはだしかった。過去の痛恨を新《あらた》にすべく、普通の人が滅多《めった》に出逢わないこの偶然に出逢うために、千百人のうちから撰《え》り出されなければならないほどの人物であったかと思うと、宗助は苦しかった。また腹立たしかった。彼は暗い夜着の中で熱い息を吐《つ》いた。
 この二三年の月日でようやく癒《なお》りかけた創口《きずぐち》が、急に疼《うず》き始めた。疼くに伴《つ》れて熱《ほて》って来た。再び創口が裂けて、毒のある風が容赦なく吹き込みそうになった。宗助はいっそのこと、万事を御米に打ち明けて、共に苦しみを分って貰おうかと思った。
「御米、御米」と二声呼んだ。
 御米はす
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