掛っちゃいけませんがね。黙って向《むこう》に喋舌《しゃべ》らして、聞いている分には、少しも危険はありません。ただ面白いだけです」としきりに勧《すす》め出した。宗助は多少心を動かした。
「おいでになるのは御令弟だけですか」
「いやほかに一人|弟《おとと》の友達で向《むこう》からいっしょに来たものが、来るはずになっています。安井とか云って私はまだ逢った事もない男ですが、弟がしきりに私に紹介したがるから、実はそれで二人を呼ぶ事にしたんです」
 宗助はその夜|蒼《あお》い顔をして坂井の門を出た。

        十七

 宗助《そうすけ》と御米《およね》の一生を暗く彩《いろ》どった関係は、二人の影を薄くして、幽霊《ゆうれい》のような思をどこかに抱《いだ》かしめた。彼らは自己の心のある部分に、人に見えない結核性の恐ろしいものが潜《ひそ》んでいるのを、仄《ほの》かに自覚しながら、わざと知らぬ顔に互と向き合って年を過した。
 当初彼らの頭脳に痛く応《こた》えたのは、彼らの過《あやまち》が安井の前途に及ぼした影響であった。二人の頭の中で沸《わ》き返った凄《すご》い泡《あわ》のようなものがようやく静ま
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