あった。小六は真面目《まじめ》な顔をして、これが袖萩《そではぎ》だそうですと云って、それを兄夫婦の前に置いた。なぜ袖萩だか夫婦には分らなかった。小六には無論分らなかったのを、坂井の奥さんが叮嚀《ていねい》に説明してくれたそうであるが、それでも腑《ふ》に落ちなかったので、主人がわざわざ半切《はんきれ》に洒落《しゃれ》と本文《ほんもん》を並べて書いて、帰ったらこれを兄さんと姉さんに御見せなさいと云って渡したとかいう話であった。小六は袂を探ってその書付を取り出して見せた。それに「此《この》垣《かき》一重《ひとえ》が黒鉄《くろがね》の」と認《したた》めた後に括弧《かっこ》をして、(此《この》餓鬼《がき》額《ひたえ》が黒欠《くろがけ》の)とつけ加えてあったので、宗助と御米はまた春らしい笑を洩《も》らした。
「随分念の入った趣向《しゅこう》だね。いったい誰の考《かんがえ》だい」と兄が聞いた。
「誰ですかな」と小六はやっぱりつまらなそうな顔をして、人形をそこへ放り出したまま、自分の室《へや》に帰った。
 それから二三日して、たしか七日《なぬか》の夕方に、また例の坂井の下女が来て、もし御閑《おひま》な
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