が》めていた。彼の頭には明日《あした》の日の丸が映った。外を乗り回す人の絹帽子《きぬぼうし》の光が見えた。洋剣《サアベル》の音だの、馬の嘶《いななき》だの、遣羽子《やりはご》の声が聞えた。彼は今から数時間の後《のち》また年中行事のうちで、もっとも人の心を新にすべく仕組まれた景物に出逢わなければならなかった。
陽気そうに見えるもの、賑《にぎや》かそうに見えるものが、幾組となく彼の心の前を通り過ぎたが、その中で彼の臂《ひじ》を把《と》って、いっしょに引張って行こうとするものは一つもなかった。彼はただ饗宴《きょうえん》に招かれない局外者として、酔う事を禁じられたごとくに、また酔う事を免《まぬ》かれた人であった。彼は自分と御米の生命《ライフ》を、毎年平凡な波瀾《はらん》のうちに送る以上に、面前《まのあたり》大した希望も持っていなかった。こうして忙がしい大晦日に、一人家を守る静かさが、ちょうど彼の平生の現実を代表していた。
御米は十時過に帰って来た。いつもより光沢《つや》の好い頬を灯《ひ》に照らして、湯の温《ぬくもり》のまだ抜けない襟《えり》を少し開けるように襦袢《じゅばん》を重ねていた。長
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