なで切った。庖丁《ほうちょう》が足りないので、宗助は始からしまいまで手を出さなかった。力のあるだけに小六が一番多く切った。その代り不同も一番多かった。中には見かけの悪い形のものも交った。変なのができるたびに清《きよ》が声を出して笑った。小六は庖丁の背に濡布巾《ぬれぶきん》をあてがって、硬い耳の所を断ち切りながら、
「格好はどうでも、食いさいすればいいんだ」と、うんと力を入れて耳まで赤くした。
 そのほかに迎年《げいねん》の支度としては、小殿原《ごまめ》を熬《い》って、煮染《にしめ》を重詰にするくらいなものであった。大晦日《おおみそか》の夜《よ》に入《い》って、宗助は挨拶《あいさつ》かたがた屋賃を持って、坂井の家に行った。わざと遠慮して勝手口へ回ると、摺硝子《すりガラス》へ明るい灯《ひ》が映って、中はざわざわしていた。上《あが》り框《がまち》に帳面を持って腰をかけた掛取らしい小僧が、立って宗助に挨拶をした。茶の間には主人も細君もいた。その片隅《かたすみ》に印袢天《しるしばんてん》を着た出入《でいり》のものらしいのが、下を向いて、小《ち》さい輪飾《わかざり》をいくつも拵《こしら》えていた。
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