いた。夫婦は日の前に笑み、月の前に考えて、静かな年を送り迎えた。今年ももう尽きる間際《まぎわ》まで来た。
 通町《とおりちょう》では暮の内から門並揃《かどなみそろい》の注連飾《しめかざり》をした。往来の左右に何十本となく並んだ、軒より高い笹《ささ》が、ことごとく寒い風に吹かれて、さらさらと鳴った。宗助も二尺余りの細い松を買って、門の柱に釘付《くぎづけ》にした。それから大きな赤い橙《だいだい》を御供《おそなえ》の上に載《の》せて、床の間に据《す》えた。床にはいかがわしい墨画《すみえ》の梅が、蛤《はまぐり》の格好《かっこう》をした月を吐《は》いてかかっていた。宗助にはこの変な軸の前に、橙と御供を置く意味が解らなかった。
「いったいこりゃ、どう云う了見《りょうけん》だね」と自分で飾りつけた物を眺《なが》めながら、御米に聞いた。御米にも毎年こうする意味はとんと解らなかった。
「知らないわ。ただそうしておけばいいのよ」と云って台所へ去った。宗助は、
「こうしておいて、つまり食うためか」と首を傾けて御供の位置を直した。
 伸餅《のしもち》は夜業《よなべ》に俎《まないた》を茶の間まで持ち出して、みん
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